とにかく由美子さんは元気である。一人でゴロゴロ転がしながら旅するのだから、自由で楽しく笑っている。日本人女性でここまでタフな人がいると、私なんかはひょろひょろ人間だと思える。私も旅好きだが、気の狂うような年間予定を立ててしまう旅人とは比べものにならない。そして各地から、文化や文明の報告を写真付きで伝えてくれる。由美子さんとの文通はかれこれ17年も続いているが、お互いに日本語盛り沢山で書く。でも時々頭に浮かぶ。同じことを英語やドイツ語、フランス語、イタリア語、スペイン語でやっているのではないか?と。あの人の頭の中はどうなっているのか感心するが、元々文学少女である由、旅を続けていればどの言語でも書けるのだろう。私はすっかり日本の住人になってしまった。決して悲しんでいるわけではないのだが、外が恋しいと思うことはしばしばあり。
日本に住んでいて世間の流行だけは身近に感じている。聞こえてくる流行りのポップスも口ずさむ。馴染むことはできている。ただ、美しい日本の四季というのが、どうも違っている。昨春だって、暖冬だった割にはのんびりやって来たし、夏だって7月はずっと雨が降っていた。冷夏だと言われたのに8月は38℃とか毎日狂っていた。
そういう時、由美子さんにこの手の話は通じない。彼女にはもう四季は存在しない。
「タイムトラベルする人にとっての一秒で、一年後の未来に行くには、光速の何%で進めばいいのか」との難題を5年生に投げかけられて困っている私にとって、由美子さんは正に異次元の世界で生きているのだと思える。ファンタジー要素のある人だから、年相応といった事物や通常の概念などといったことが実に無意味だ。
ヨーロッパに向かおうとした室伏鴻さんがメキシコの空港で亡くなった時、由美子さんもいつかはそうなのかなと思った。でも2020はその旅を止めるよう進言した。COVID-19で辺境の地で死んで、しばらくして遺骨だけ日本に帰ってきたらラッキーだけど・・なんて言って。実際、年間何度飛行機に乗っているのか知らないけど、事故など無縁でこれた運のいい人にとって、私の言葉は厄介だったかもしれない。でも旅の自由や爽快感を喜べない状況なんて、あっても仕方ない。代わりの方法はいくらでもあるだろう。
